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大阪地裁平成24年12月3日判決
●商 品: 仕組債(株価連動債)
●違法要素: 適合性原則違反、説明義務違反
●過失相殺: 3割
●掲 載 誌: 判例時報2186・55頁、判例セレクト43・179頁
●審級関係: 控訴審で和解成立
事案は、既に勤務先を退職して無職となっていた夫婦が、仕組債の勧誘を受けて、複数回にわたってこれを購入し、多額の損失を被ったというものであった。なお、本件の仕組債はすべて、豪ドル建ての日経平均連動債で、期限は10年であり、早期償還条件やノックイン条件が付されていた他、日経平均株価の変動でクーポンも変動する仕組み(デジタルクーポン型)になっていた。
判決は、本件各仕組債の商品特性につき、「利金の利率、償還時期及び償還額のそれぞれが日経平均株価によって変動し、その日経平均株価自体が株式現物等と異なり抽象的な経済指標に過ぎないこと、しかも利率等の変動の基準価格がそれぞれクーポン判定価格、トリガー価格、ノックイン価格という3種類の基準が使い分けられていることなどに照らすと、本件各仕組債は、その仕組みが複雑であるといえ、必ずしも理解することが容易な商品とはいえないものである。」とした上で、原告らの年齢、経歴及び職歴を考慮すれば、「本件各仕組債は、原告らにおいて、その仕組みを理解すること自体相当困難であったと推認される。」とし、「また、本件各仕組債は、前記1(1)のとおり、得られる可能性のある利益は利金の限度であるのに、利金の程度にとどまらない元本毀損の損失を受ける可能性があり(ただし、投資元本を超えて損失が生じることはなく、元本毀損の程度にも一定の限度はある。)、しかも中途売却ができないといった制約があるほか、豪ドル為替リスクといった重要なリスクをも有するなど、種々にわたる相当高度なリスクを有する金融商品であるというべきである。そして、このような本件各仕組債のリスクの内容及び程度に鑑みれば、本件各仕組債は、その購入に当たって、日経平均株価の上昇による期限前償還の可能性を考慮しつつ、満期償還日までの10年間にわたる日経平均株価及び豪ドル為替の変動や発行体である外国金融機関の信用リスクを予測して、投資判断することが必要となる商品であると評価することができる。」(原文のまま)とした。
そして判決は、顧客の株式や株式投資信託に関する取引経験を子細に検討して、顧客らが「株価の変動を主体的に予測できる能力やその予測を基に売買益を狙うような積極的な投資意欲を有していたとは認められない。」とし、むしろ、その投資目的は比較的安全志向であったと評価することができるとした上で、顧客らに「本件各仕組債に関し、期限前償還の可能性や満期償還日までの10年間にわたる日経平均株価及び豪ドル為替の変動、発行体である外国金融機関の信用リスクを予測して投資判断する能力があったとは到底認められない。」との判示を行い、さらに、「上記アの本件各仕組債に内包されるリスクの内容及び程度に照らせば、本件各仕組債は、上記イの原告らの取引経験からうかがわれる原告の投資意向に沿わないものであったとも認められる。」(原文のまま)として、本件勧誘行為は適合性原則に著しく逸脱したものとして不法行為法上違法となるとした。
次に、判決は、説明の問題に関し、「本件各仕組債は、前記2(2)アのとおり、その仕組みが複雑であり、そのリスクも相当高いものであるから、原告らの前記属性を考慮すると、本件各仕組債の勧誘に当たっては、原告らの知識や理解力に応じた分かりやすい説明を行うことはもとより、当該説明によって原告らの理解が得られたかどうかを適宜の方法で確認するなど十分な配慮をすべき義務があった」(原文のまま)とした上で、リーフレットや重要事項説明書にリスクを明示した記載があり、顧客らはこれらの記載を示されながら説明を聞いた上で受領書兼確認書に署名押印したことを認定しつつ、幾つかの間接事実から、被告証券会社担当社員は顧客らの属性を正しく把握しようともしていなかったことがうかがわれるとし、さらに、被告証券会社担当社員が、高齢者や取引経験の浅い者を保護すべく設けられていた社内ルールを履践していなかったことを指摘して、「これらの事情に鑑みれば、○○(注・被告証券会社担当社員)は、そもそも当該顧客の投資に関する知識、取引経験、理解力及び投資意向などを把握できておらず、したがって原告らの知識や理解力に応じた分かりやすい説明をなし得なかったというべきであり、また、○○には、自身の説明によって原告らの理解が得られたかどうかを適宜の方法で確認するなど十分な配慮をして説明を尽くそうとする意識さえも欠けていたといわざるを得ない。」と判示した。さらに判決は、勧誘時の説明においては、顧客らから質問はされず、被告証券会社担当社員も顧客らの理解をとくに確認することもなく、一方的な説明に終始したことや、被告証券会社担当社員自身が日経平均株価がノックイン価格を割り込むことはないと予測していたこと、顧客らに示された株価は平成18年から平成20年にかけての約2年間のもので、株価が過去に大きく変動していた時期の値動きを示すものではなかったことを認定し、これらが相俟って、被告証券会社担当社員の説明が、顧客らがリスクの内容及び程度を実感を伴って理解できるものにはなっていなかった可能性も十分にあるところ、結果としても顧客らはノックインによる元本毀損のリスクについてほとんど関心を払っていなかったことを指摘し、以上から、前記義務が尽くされていなかったとして、説明義務違反を認めた。
3割の過失相殺には疑問が残るが、適切な総合判断によって正面から適合性原則違反が肯定されていることや、社内ルールにすら反した手続や不十分な説明の実態を指摘した上で説明義務違反が肯定されている点において、意義のある判決であると思われる。