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大阪高裁平成9年5月30日判決
●商 品: 投資信託
●違法要素: 説明義務違反、事後の情報提供義務違反
●過失相殺: 7割
●掲 載 誌: 判例セレクト6・361頁、判例時報1619号78頁、金融法務事情1498・39頁
●審級関係: 高裁逆転勝訴、最高裁平成10年6月25日判決(判例セレクト8・379頁、金融法務事情1522号92頁)で上告棄却
事案は、退職金の一部を原資とする中国ファンド購入後、勧誘により株式投資信託への「乗換」が行われたというものである。一審判決は、本件投資信託は安定性と値上がりの妙味を合わせ持つ商品として入門的に購入されることも想定されるもので、適合性原則違反はないとし、また、十分な説明が行われたかどうかは確定しがたく、より懇切丁寧な説明が望ましかったとしながら、パンフレットの交付等を重視して説明義務違反も否定した。
これに対して本判決は、適合性原則違反につき、顧客の属性や意向を子細に検討した上で、不適切な商品勧誘に当たるとまでは断定できないがその疑いがないとは言い切れないとした。そして説明義務に関し、電話では相手方の十分な理解はあまり期待できない、仮に担当社員が説明を行っていたとしても顧客に伝わらなかったものと認めざるを得ない、担当社員には具体的に十分な説明をして顧客の理解を得る配慮が必要であった、交付されたパンフレットは欄外に元本割れのリスクが記載されているものの全体として安全や安定成長を印象付ける宣伝的なものであった、受益証券説明書や運用報告書は交付されていなかった、との認定・判断の下、説明義務違反を認めた。また、投資信託が一任的性格を有することから、顧客に解約の機会を逸させることのなきよう、証券会社は取引後においても情報提供義務を負うとし、取引後の運用状況の報告がなかったことをも説明義務違反の一要素とした。
なお、高率の過失相殺は疑問であるが、中国ファンドのまま保有されていた場合の利金相当額(逸失利益)が損害として認められている点(実質的には元本割れの額から受領済配当金を控除した実損のほぼ全額が回復されている)は注目に値する。
本判決の判断は、顧客の属性や「理解」の重視において一審判決とは対象的であり、上告審でも維持されており、一般消費者への「リスクのある貯蓄性商品」の勧誘の当否に関し、参考となる判決と言える。