【仕組債被害について】

第1 第1期(ITバブル期)の被害

 個別株のコール・オプションの性質を有していたワラント被害が沈静化してからは、デリバティブ絡みの証券取引被害は、時折、取引所取引としての株価指数オプション取引の被害や、このような取引所におけるデリバティブ取引を投資対象とする投資信託の被害がある程度でした。(当事務所では、株価指数オプション取引被害についても、8割認容となった大阪地裁平成19年11月16日判決を取得しています。)また、平成10年に店頭デリバティブが解禁された際にも、これはあくまで機関投資家の取引対象であって、一般投資家には縁がないものと考えられていました。
 ところが、店頭デリバティブの解禁は、平成11年前後のITバブル期に、一般投資家への仕組債(EBや日経平均連動債)の販売という形で、一頃のワラント被害に類似した態様の多数の被害を産み出しました。
 このようなデリバティブを組み込んだ仕組債については、当事務所で取得したEB被害に関する大阪地裁平成15年11月4日判決(判例時報1844号97頁)が初の顧客勝訴判決となりました。これは研究会メンバーを中心として結成された大阪EB被害弁護団で取り組んだ事案の1つであり、弁護団の研究成果が、表面的な償還条件の説明だけでは足りず株式償還リスクの程度を具体的に理解させる必要がある、との裁判所の判断を引き出すことに繋がりました。
 以後、EBや日経平均連動債についての判決が相次ぎ、当事務所でも、日経平均連動債を含む一連の取引について適合性原則違反と説明義務違反を認めた大阪高裁平成20年6月3日判決(金融商事判例1300号45頁)、複数のEBと日経平均連動債を含む一連の取引について適合性原則違反を認めた大津地裁平成21年5月14日判決を取得しています。

第2 第2期(平成16〜17年以降)の被害

 ITバブルの崩壊後は、以上のような被害の顕在化に加え、相場状況の悪化により販売しやすい仕組債の設計は困難になったためか、仕組債の販売は収まりを見せていました。ところが、その後の株価上昇や円安傾向を背景に、平成16〜17年頃から、またも多数の仕組債の販売が行われるようになりました。この時期には、設計や販売の自由度が大きい私募形式が大半を占め、対象銘柄を増加させる、想定元本の倍率を効かせるといった点で、ITバブル期よりも遙かに難解でリスクが高い仕組債が登場し、ゼロ金利もしくは低金利での長期拘束という特殊なリスクを包含した為替連動型や金利連動型の仕組債も一般投資家に販売されるようになり、そしてついには、銀行が、仕組債を運用対象とするノックイン型投資信託の販売を開始し、主婦や高齢者をも対象とした小口販売が行われるようになりました。その結果、これらの多くが、その後の株価下落や円高により、購入者に深刻な損失をもたらすに至っています。さらに近時は、一般投資家の域を出ない法人を対象とした店頭デリバティブ契約による被害も多発するに至っています。
 このような第2期の被害についても、当事務所が取得した大阪地裁平成19年11月8日判決(金利連動型仕組債について無断売買で勝訴)が最初の顧客勝訴判決であると思われます。そして、これも当事務所が取得した大阪高裁平成22年3月26日判決(金融商事判例1358号57頁)は、株価連動型の仕組債を「ハイリスクで賭博性の高い商品」と認めて、法人とその代表者の被害につき損害の8割を認容しており、今後に繋がる画期的な判決となりました(この事件は控訴審で和解が成立しました)。
 また、当事務所が取得した大阪地裁平成22年8月26日判決は、銀行による預金者への大量販売が行われたとされるノックイン型投資信託(仕組債で運用を行う仕組投資信託)についての初の勝訴判決として、広く報道され、大きな反響を呼びました(この事件も控訴審で和解が成立しました)。
 以上のとおり、当事務所においては、既にこれまでに多数の仕組債(仕組商品)事件に取り組んで成果を上げており、現在も複数の訴訟を担当しておりますが、これらの仕組商品やデリバティブ商品への取り組みは、現時点における最も重要な課題であると認識しています。