【証券取引被害訴訟の類型と成果】

第1 ワラント被害

 証券取引被害訴訟は、バブル崩壊による株価の著しい下落と証券不祥事を契機として平成3〜4年以降に盛んに提起されるに至った訴訟類型であり、とくにこの時期には、全国的に多数のワラント被害についての訴訟が提起されました。この時期には、まだ現在のような法律上の説明義務の規定はなく、説明義務というものが存在するのかどうか、存在するとしてその内容はどのようなものかが激しく争われましたが、平成10年頃までに、多数の判決によって、説明義務の法理が判例法理として定着するに至りました。
 当職も、このようなワラント被害については、説明義務違反だけではなく当時としては珍しかった適合性原則違反が認められて10割勝訴となった大阪地裁平成7年2月24日判決(判例時報1548号114頁)や、複数の研究会メンバーの共同受任によって初の逆転勝訴となった大阪高裁平成7年4月20日判決(判例時報1546号20頁)をはじめ、7件の勝訴(一部勝訴)判決を取得しています。
 さすがに今日ではワラント被害は見られなくなりましたが、ワラント被害訴訟が今日の証券取引被害訴訟や救済法理全般の基礎を築いたことは間違いありません。当事務所にとっても、この時期のワラント被害訴訟において、研究会の尊敬すべき先輩弁護士や多くの仲間と議論し研究を重ねるなどして新種商品の問題性を徹底して解明し、当初は困難な状況にあった訴訟で確実に成果を上げてきた経験は、近時の最も重大な問題である仕組債やデリバティブの問題への取り組みに、大いに役立っています。

第2 株式取引被害

1 断定的判断型

 株式取引における「絶対儲かります」型の「断定的判断の提供を伴う違法勧誘」の事件は、昔から数多く見受けられました。無論、株に「絶対」がないことは誰にでも分かることではある上に、言った言わないの問題にされてしまいやすいことから、この類型の訴訟もまた、簡単に勝訴できる訴訟ではありません。訴訟提起の可否を考えるにあたっては、具体的にどのような勧誘の言葉が顧客にどのような影響を与えたのか、それが顧客の自己責任による投資判断を阻害するものであったと言えるかを十分に検討し、それらを支える証拠や間接事実の有無を吟味することになります。
 当事務所では、10割勝訴となった奈良地裁平成11年1月22日判決(判例時報1704号126頁・但し控訴審の大阪高裁判決では7割勝訴に減額)、7割認容となった大阪地裁平成12年6月28日判決、逆転勝訴で7割認容となった大阪高裁平成15年6月19日判決などの判決を得ております。

2 過当取引型

 株式取引のもう1つの典型的被害類型として、証券会社が顧客の信頼を背景に多数の売買を頻繁に繰り返して多額の手数料収入を取得する一方で、顧客を過大な危険に晒す過当取引型被害があります。この類型についても、全国的な取り組みによって、アメリカのチャーニングの法理に基礎を置く過当取引の法理が多数の裁判例によって認められるに至っています。しかし、手数料稼ぎの背信的意図が認められながら、顧客の属性や顧客が多数回の取引を容認していた事実などから過失相殺割合が大きくなるケースも多く、この点は今後の課題であると言えます(但し、業者側も内部監査等で過当性の基礎となる数値のチェックを行っているはずであることや、ネット取引の普及や手数料の自由競争による顧客側の手数料に対する意識の変化もあって、以前のような露骨な過当取引型被害は次第に少なくなり、とくに悪質な業者にだけ見られる特殊な被害類型となっていくのではないかとも思われます)。
 当事務所でも、過当取引の違法性を認めた判決として、大阪高裁平成19年3月9日判決(共同受任)、大阪高裁平成20年3月25日判決などを得ています。

第3 投資信託被害

 投資信託には、相当に安全性が高い貯蓄型商品もあれば、デリバティブを投資対象とするハイリスク商品もあり、その商品名を聞いただけではリスクの程度を判別できないため、昔から多数の被害が生じていました。ところが、他方では、投資信託は、主婦や高齢者等の素人顧客に小口販売されることが多いこともあって、悪質な被害が生じても泣き寝入りとなってしまうことが多い商品でもありました。
 このような投資信託の被害は、当初は「元本保証ではないこと」つまり「元本割れのリスクの存在」が説明されていたかどうかだけが問題とされ、この点さえ説明していればよいとされることが少なくなかったのですが、次第に当該投資信託の「具体的なリスクの程度」を理解させたかどうかが問題とされるようになり、現在では、後者の考え方が定着しています。
 当事務所では、初の逆転勝訴となった大阪高裁平成9年5月30日判決(共同受任・判例時報1619号78頁)を皮切りに、時効期間が10年であることを認めた大阪地裁平成11年3月30日判決(判例タイムズ1027号165頁)及び大阪高裁平成12年5月11日判決、いわゆるブルベア投信についての初の顧客一部勝訴判決である大阪地裁堺支部平成14年12月6日判決など、幾つかの一部勝訴判決を取得してきました。
 しかし、投資信託は素人顧客の入門用商品との位置付けもあるためか、「認容額5割を超えること」「適合性原則違反を認める判断を得ること」が高い壁となり、これらを達成することがなかなかできませんでした(前記大阪地裁堺支部判決だけは適合性原則違反を認めていますが、これはデリバティブ型のブルベア投信という特殊性がありました)。しかし、ようやく、大阪地裁平成18年4月26日判決(判例時報1947号122頁)によって、多数の株式投資信託を中心とした被害事案において適合性原則違反の判断と8割認容の判断を得ました(控訴審でも原審認容額元本で和解が成立しました)。以後は、類似した被害類型の事件について、大阪高裁平成20年6月3日判決(金融商事判例1300号45頁)、大津地裁平成21年5月14日判決と、続けて、適合性原則違反が認められて損害の5割超を認容する判決を取得しています。
 また、平成10年からは銀行も投資信託の販売を開始していますが、当事務所では、銀行による投資信託の勧誘、販売について適合性原則違反や説明義務違反を認めた大阪地裁平成22年8月26日判決(金融商事判例1350号14頁)を取得しており、この判決は、銀行の投資信託販売についての初の勝訴判決として、各方面で広く取り上げられました。なお、この判決については、控訴審で、9割認容を前提とした和解が成立し、一審判決を超える内容での被害回復を果たすことができました。

第4 社債(転換社債)被害

 我が国の公募社債(転換社債を含む)については、平成8年の規制緩和までは厳しい発行規制があった上に、デフォルトが生じてもメインバンクが肩代わりするなどして投資家保護を果たしてきたため、公募社債のデフォルトによる一般投資家の被害が生じることはなく、平成8年のオリンピックスポーツ転換社債(但し海外発行)のケースが、一般投資家にデフォルトによる被害が生じた初のケースとなりました。
 しかし、このようなデフォルトによる損失はレアケースと受け止められ、「社債の信用リスクは常識だから説明の必要はない」「発行企業の倒産は予見可能性がない」といった理不尽な内容の敗訴判決が目立ち、社債事案での勝訴は容易ではない状況が続きました。当事務所でも、上記のオリンピックスポーツ転換社債の被害事案を扱いましたが、説明義務違反は認められず、購入後の問題だけで一部逆転勝訴(大阪高裁平成13年2月16日判決)に持ち込むのが精一杯でした。
 その後、平成13年9月に破綻したマイカルの社債について、全国証券問題研究会メンバーを中心に弁護団が結成され、当職も大阪弁護団の一員となって、東京、名古屋、大阪で集団提訴を行いました。その結果、一審では各地全面敗訴となったものの、控訴審では一部ではあるものの3つの高裁すべてにおいて逆転勝訴判決を得ることができました。その皮切りとなった大阪高裁平成20年11月20日判決(判例時報2041号50頁)では、ようやく、「当該社債のリスクの有無及び程度といった具体的信用リスクに関する重要な情報」についての説明義務違反が認められるに至りました。その内容はまだ十分とは言えませんが、「信用リスクの説明義務」の大きな壁を高裁レベルで一部とはいえ突破できたことは、今後に大きな影響を与えるものと自負しています。